政府の強力な後押しもあり、「リスキリング」が注目を集めています。リスキリングとはそもそもなんなのか? 私たちは何をすればいいのか?  (以上、日本経済新聞出版)などの著書がある組織コンサルタントの堀公俊さんに解説してもらいました。堀さんはDX(デジタルトランスフォーメーション)的なスキルの前に、身に付けるべきビジネススキルがあると言います。

すべての人にリスキリングが求められる

 岸田文雄首相が、成長産業への労働移動を促すため、リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる計画を打ち出しました。リスキリングとは、新しい仕事のために必要となるスキルを習得することです。

 近ごろでは、DX化の進展に伴い、今後新しく生まれる職業や仕事をこなすための能力開発を指すことが多くなりました。もともとは職種転換や環境変化に伴う「学び直し」全般を指す言葉です。

 そもそも日本の「GDPに占める企業の能力開発費の割合」は、欧米諸国と比較し、「突出して低い水準にあり、経年的にも低下して」(「労働経済の分析」厚生労働省、平成30年)いると言われています。しかも、日本のビジネスパーソンは能力開発にあまり熱心ではありません。

 アジア太平洋地域(APAC)の14カ国を対象とした「APACの就業実態・成長意識調査」(パーソル総合研究所、2019年)で、勤務先以外の学習や自己研鑽(けんさん)の実態を調べたところ、日本では「とくに何も行っていない」と回答した人が約半数で、14カ国中で最低でした。

 確かに、プログラミング、データ分析、AI(人工知能)といったDX的なスキルはこれからとても重要になってきます。しかしながら、これらのスキルは、論理思考力などのビジネススキルがあってはじめて役に立ちます。

 ちなみに、「2030年までに10億人のリスキリング」を提唱したダボス会議では、「2020年に必要なビジネススキル」として、(1)複雑な問題解決、(2)クリティカルシンキング、(3)創造力をベスト3に挙げています。こういったスキルこそ、いま一度学び直さなければ、次の時代に生き残っていけないのではないでしょうか。

ダボス会議で提唱された「2020年に必要なビジネススキル」
ダボス会議で提唱された「2020年に必要なビジネススキル」
(出所)『ビジネススキル強化メソッド』(日本経済新聞出版)
[画像のクリックで拡大表示]

知識とスキルとでは学び方がまるで違う

 この手の話をすると必ず出てくる質問があります。「30~40代の中堅層は何を身に付ければよいですか?」というものです。尋ねたくなる気持ちは分かりますが、それは自分で考えてこそ意味があると思います。

 働くことは学ぶことであり、仕事は「人間として成長する」ためにするものだとも言えます。どんなスキルを身に付けるかは、どんな働き方をするか、どんな職業人生を選択するかにより、人任せにはできません。大人の学習で最も大切なのが主体性です。会社任せにせず、「自分のことは自分で決める」からこそ育まれてきます。

 しかも、知識とスキルとでは学び方が大きく違います。学校の勉強は知識をインプット(入力)することが主でした。教科書や授業を通じてできるだけ効率的に情報を詰め込むのが、学習の中心となっていました。

 それに対して、ビジネススキルではアウトプット(出力)、すなわち発信や実践が中心になります。自分が身に付けたいスキルや自分の個性が生かせるスキルを、自ら選んでこそ熟達への長い道のりを歩くことができます。

 さらに言えば、ビジネススキルは1人では学べず、人と人の関わりを通じて学ぶものです。ビジネススキルの多くは、相手がいないと実践の経験が積めず、組織の中で悪戦苦闘をしないと自分のものになりません。できる人からコツを教えてもらったり、じっくり観察して技を盗んだりして、生身の人間が五感を総動員して交流する必要があります。

 つまり、今私たちに求められているのは、慣れ親しんだ学校モデルをアンラーニング(学習棄却)して、新たにスキルの学び方を学ぶことです。能力開発の方法こそ、リスキリングしないといけないのです。そのための具体的な方法を、拙著(日本経済新聞出版)の中からいくつか紹介していきましょう。