製造業のデジタル革新を巡る最新情報が集まるイベントとして、世界の注目を集めるドイツの大規模産業見本市「Hannover Messe 2023」が、4月17~21日の5日間にわたって開催された。ここでは、ドイツの製造業革新プロジェクト「インダストリー4.0(Industrie4.0)」が新たな段階を迎えたことを感じさせた「データ連携基盤」を巡る展示をはじめ、「アセット管理シェル」「生成AI(人工知能)」「産業用メタバース」などHannover Messe 2023のハイライトを紹介する。

 主催者の発表によるとHannover Messe 2023に出展した企業・団体の数は約4000。5日間の来場者数は約13万人に上った。約7000の団体・企業が出展し、21万人の来場者が訪れていた例年には及ばないものの、新型コロナウイルス感染拡大によるブランクを経て3年ぶりにリアルな形で開催された昨年に比べて、出展企業・団体の数も、来場者数も増えており、会場には少し賑わいが戻っていた(図1)。

図1 Hannover Messe 2023の風景
図1 Hannover Messe 2023の風景
(撮影:Mari Kusakari)

「Catena-X」が本稼働へ

 今回の会場で最も大きな話題になっていたのが、企業や業界の枠を超えて情報を共有できる環境を提供する「データ連携基盤」である。多くの来場者の関心を集めるキッカケになったのは、自動車業界のデータ連携基盤「Catena-X」を構築するイニシアティブを推進する非営利団体「Catena-X Automotive Network」が開幕前の4月4日に、2023年4月からCatena-Xのベータ版(試用版)の運用を開始し、同年9月に本稼働させる計画を発表したことだ。併せてHannover Messeの会場で、実際にCatena-Xを使ったデモンストレーションを披露することも明らかにした。

 予定通りに稼働すればCatena-Xは、欧州のデータ連携基盤構築を目指すイニシアティブ「GAIA-X」が策定したポリシーや標準に基づいて、実際に運営を始める最初のデータ連携基盤になる。このため自動車業界に限らず、GAIA-Xに関わる可能性のあるあらゆる業界の来場者が、今回のCatena-Xの巡る新たな動きに注目したようだ。

情報を求めて来場者が集中

 Catena-X Automotive Networkは、ドイツの製造業革新プロジェクト「インダストリー4.0」の推進役を務める「Plattform Industrie4.0」の展示スペースの一角に、自動車関連企業10社がCatena-Xの運用会社として2023年1月に設立したベンチャー企業「Cofinity-X」と共に展示スペースを構えた(図2)。ここでCatena-X Automotive Network は、事前の予告通りに、ユースケースのデモンストレーションを披露した。具体的には、「サプライチェーン全体を管理するための取引先とのデータ共有」「バリュー チェーン全体にわたる部品レベルのトレーサビリティの実現」「バリューチェーン全体にわたるCO2管理」「循環型ビジネスの構築」、といったユースケースである。一方、Cofinity-Xは、自社のビジネスモデルや今後の計画などについてディスプレイやパネルを使って紹介していた。

図2 Catena-X Automotive NetworkおよびCofinity-Xの展示コーナー(左)と講演の様子(右)
図2 Catena-X Automotive NetworkおよびCofinity-Xの展示コーナー(左)と講演の様子(右)
(撮影:Mari Kusakari)

 これらの展示スペースは開催期間中、終日多くの来場者で賑わっていた。会場内の特設ステージで開かれたCatena-X Automotive NetworkとCofinity-Xによる講演にも、大勢の立ち見が出るほど来場者が押しかけており、Catena-Xに対する業界の関心が急速に高まっている状況がうかがえた。

基盤間の相互運用性を確保

 Catena-X Automotive NetworkとCofinity-Xによる共同の展示や講演では、Catena-Xの具体的な運用の仕組みについて紹介していた。それによると、Catena-X Automotive Networkは、データ主権の担保を軸としたガバナンスの定義、データ交換に関する標準の設定、ベンダーが提供するソリューションの認定、関連する産業の振興などの役割を担うほか、自らソリューションも提供する。これらに加えて、参加に向けた準備、Catena-Xを利用するためのアプリケーションの導入、Catena-Xへの接続、データ利用に関するガバナンスの整備、データを利用したビジネスプロセスの構築など、データ連携基盤に参加する企業を広範囲にわたって支援する。

 データ連携基盤に関する業務は、別の運営会社が担う。その運営会社の第1号が、Cofinity-Xである。運営会社の主な役割には、データ連携基盤の運営に関する「コアサービス」の提供、Catena-Xに参加する企業が利用するアプリケーションやサービスを提供するマーケットプレイスの運用、アプリケーションの開発などがある。こうした運用会社を中心に、様々なサービスやアプリケーションを提供するプロバイダが集まった「エコシステム」を構築する考えだ。

 さらに今後、Cofinity-Xに続いていくつも運営会社が登場し、Catena-Xの傘下で複数のデータ連携基盤が立ち上がることを想定している。この場合、Catena-X Automotive Networkがまとめたガバナンスや標準に従っていれば、データ連携基盤間の相互運用性が確保されるという。