香港でシェア8割を超える漢方薬ブランド

 香港の街中や医療機関で、頻繁に名前を目にするヘルスケア企業がある。漢方薬メーカーの農本方(Nong's)だ。創業から約25年と若い企業だが、香港における同社のシェアは8割を超える。今や、堂々のトップメーカーに成長し、先進的な取り組みで知られている。

 筆者がこの名前を意識するようになったのは、本連載の第18回(「中医学はがん治療の期待に応えられるか?」)で、中医学の権威である香港中文大学中医学部副学長の林志秀教授に取材した際のこと。「多数の漢方薬メーカーの製品を試した結果、最終的に最も品質が高い」と教授が判断して、大学所属の中医診療所で使用しているという話が印象に残った。農本方の飛躍の舞台裏と漢方、中医学の現在地を聞くため、創業者のアブラハム・チャン氏を訪ねて、香港郊外にあるサイエンス・パークの本社オフィスにうかがった。

ゴールは漢方薬の近代化と国際化

 「農本方の創業は1998年。それまで家庭向けの漢方薬や健康食品のブランドである維特健靈(Vita Green)を経営していたが、医療機関など専門家向けの漢方薬開発に強い興味を抱き始めたため、維特健靈を親族に売却し、農本方を創業した」。ちなみに維特健靈は、現在も家庭向け漢方薬で香港トップのブランドである。

 チャン氏の事業目標は、創業時から現在まで一貫している。「漢方薬の近代化と国際化。それには最高品質の製品を作ること。加えて、若い世代や異文化圏にもアピールするマーケティングも必要。そう考え事業を続けて来た結果、2015年には香港で上場を果たした」

 現在、香港での市場シェアは83.5%(2021年Euromonitor調べ)というから、日々ブランド名が目に入ってくるのも無理はない。しかしチャン氏に事業の全容をうかがうにつれ、そのスケールの大きさと内容の充実ぶりにひたすら驚かされた。

右が農本方(Nong's)社創業者兼CEOのアブラハム・チャン氏。実はアグネス・チャン氏の実兄でもある。左が2016年に入社しR&D部門を率いる常務の範本文哲博士(写真:筆者撮影)
右が農本方(Nong's)社創業者兼CEOのアブラハム・チャン氏。実はアグネス・チャン氏の実兄でもある。左が2016年に入社しR&D部門を率いる常務の範本文哲博士(写真:筆者撮影)
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