全身の臓器や組織に存在する体内時計は、約24時間周期でリズムを刻んでいる。体内時計といえば、「朝の光でリセットされる」ことがよく知られているが、肥満やメタボリック症候群予防という視点で見ると食事によるリセット効果が大きく、「何をどのくらい食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」によっても、疾病の罹患リスクが異なるのだという。こうした食事と体内時計の関わりを探る「時間栄養学」の研究に取り組むのが、農業・食品産業技術総合研究機構畜産研究部門の上席研究員、大池秀明氏。大池氏が取り組む時間栄養学と老化抑制の研究は、食事や食品に関わる業界が知っておきたい注目テーマだ。

食事・食品で「体内時計」を動かす

 昆虫も、魚も、そしてヒトも、地球上の生物は「体内時計」と呼ばれるおよそ24時間の周期の基に生命活動を維持している。体内時計を司るのは、時計遺伝子。1997年に哺乳動物の時計遺伝子「Clock」が発見されて以降、体内時計に関する研究が急速に発展してきた。

 体内時計は全身の臓器や組織の全ての細胞に存在し、活動や休息、栄養の消化・吸収、体温維持など様々な機能に関わっている。この体内時計のリズムが狂うと、肥満、糖尿病などの代謝疾患、睡眠障害やうつ病、免疫・アレルギー疾患などの健康リスクにつながることが分かってきた。

 体内時計と食事の関係を「時間栄養学」というアプローチから研究しているのが、農業・食品産業技術総合研究機構畜産研究部門の上席研究員、大池秀明氏だ(図1)

 「従来の栄養学は、“1日当たりこのぐらいの量の栄養を取りなさい”という考え方で、そこに時刻の概念は入っていませんでした。しかし、時間栄養学という発想で食事を見ると、食べる時間帯によって体によりよい効果をもたらすことができるし、悪い効果が起こることもあります。また、どんな食品成分を取れば体内時計を動かすことができるか、ということも分かってきました」と大池氏は言う。

大池秀明氏 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 食肉用家畜研究領域 食肉用家畜飼養技術グループ 上席研究員
大池秀明氏 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 食肉用家畜研究領域 食肉用家畜飼養技術グループ 上席研究員
おおいけ・ひであき。2005年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了、農学博士。食品総合研究所研究員、日本学術振興会海外特別研究員(米国ウィスコンシン大学マディソン校客席研究員)を経て現職。専門分野は、体内時計(時間栄養学)、抗老化。日本時間栄養学研究会発起人、副理事長も務める(写真提供:大池氏)
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図1●時間栄養学とは?
図1●時間栄養学とは?
時間栄養学とは、体内時計を考慮に入れた栄養学のこと。体内時計を生物学的に調べる「時間生物学」、食事や食品の栄養と健康の関わりを扱う「栄養学」の重なる部分が「時間栄養学」で、相互作用の理解を目指す。時間栄養学は世界の中でも我が国で積極的に研究が行われており、近年、続々と新たな知見が蓄積されている(出所:農研機構)
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食事で時刻調節する末梢時計

 全身のあらゆる臓器、細胞に存在する体内時計は、その働きから、①活動や睡眠の時刻を支配する脳の「中枢時計(親時計)」と、②胃や小腸、肝臓、膵臓などに存在しその生理作用を支配する「末梢時計(子時計)」の2つに分けられる(図2)

 「体の各部分は24時間の中でいつ働き、休むかが決められていて、部位や機能ごとに優先順位が少しずつ異なります。例えば、取った栄養を消化したり吸収したりする臓器や組織にとっては食べ物が入ってくる時間が最も重要である一方、筋肉や肺、心臓にとっては活動する時間帯と休息する時間帯の両方があることが欠かせません。食事に関わる体内時計である末梢時計においては、特に朝食の摂取時刻が重要で、朝食を抜くと学習や運動能力のパフォーマンスが低下したり、意欲が低くなるといった研究結果が報告されています」(大池氏)。

図2●食事によって「末梢時計」はリセットされている
図2●食事によって「末梢時計」はリセットされている
体内では、光によって時刻調節をする「中枢時計」と、食事によって時刻調節をする「末梢時計」の2つが生理機能の日内リズムを刻んでいる。実際の時刻と体内時計では少しズレがあるが、朝の光や朝食、運動などによって日々の体内時計はリセットされる。時間栄養学の研究によって、不規則な食事は体内時計の不調和を誘発し、肥満やメタボリック症候群を引き起こすことが分かってきた(出所:農研機構)
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