ARTnews JAPANに訊く 「アートを企業の成長戦略に活用する」-後編-

Q. 前編では世界の富裕層とアートとの関わり、また、各企業がアートに関心を持ったきっかけなどを伺いました。
   各企業のアートへの取り組みについて、さらに具体的な例をお聞かせください。


A.
たとえばBMWには、およそ半世紀に及ぶ文化貢献活動の歴史があります。ジャズ、クラシック音楽、建築、デザイン等と並び、現代アート支援もその中心的活動のひとつです。「BMWアートジャーニー」は、新興・中堅のアーティストを毎年1名顕彰し、アート・バーゼル内に作品発表の場を提供します。こちらは2015年からアート・バーゼルと共同で実施しています。また1975年から随時、ロイ・リキテンシュタイン、アンディ・ウォーホルなど名だたるアーティストとのコラボによる「BMWアートカー」を発表してきました。

Q. アーティストとのコラボレーションは自動車以外の分野でも数多くありそうですね。


A.
ファッションブランドに多く見られます。村上隆とルイ・ヴィトンのコラボはアートに関心のない方も含めて多くの方がご存じでしょう。村上氏は炭酸飲料メーカーのペリエともコラボボトルを出しています。また、フランスのガラス工芸品メーカーのラリック社は、ダミアン・ハーストら著名な現代アーティストとのコラボ作品をラインアップしています。 フランスのワイナリー、シャトー・ムートン・ロスチャイルドのラベルも有名です。毎年、異なるアーティストによるデザインを楽しみにしているワイン&アート好きも多いと思います。2022年秋に発売された新酒のラベルはオラファー・エリアソンのデザインでした。 前出のルイナールも、1896年にアルフォンス・ミュシャにポスターを依頼して以来、アーティストと深い協力関係を継続しています。同社は2008年から毎年、アーティストとのコラボ包装品を販売しています。スコットランドを代表するシングルモルトウイスキーメーカーであるマッカランもアーティストとのコラボによる美しいラベルや箱を制作しています。

Q. アーティストの育成・支援についてはいかがでしょうか。


A.
スイスの化粧品メーカー、ラ・プレリーは次世代アーティストの育成プログラムを、宝飾・時計メーカーの米デビッド・ヤーマンも、寄付によって奨学金を助成しています。 スイスの損保会社チュブ保険は、NYアカデミー・オブ・アートの奨学生を支援して、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチでのデビューの機会も提供しています。イタリアの巨大ヨットメーカー、サンロレンツォも同様に、選定したアーティストに制作を委託した作品を各地のバーゼルフェアで展示。米のデジタル技術企業バイブアーツも、アート・バーゼルやベネチアビエンナーレ、著名ギャラリーなどにおけるVRアーティストの作品発表を支援しています。
このように、金融、不動産、車、船、時計、宝飾、ファッション、飲料、デジタル技術など、世界のさまざまな企業が現代アートを支援しています。彼らにとって現代アート支援はメセナというより、本業に貢献する重要なマーケティング戦略なのです。優良顧客との強力な接点であり、ブランディングや他社との差別化、そして若い世代への企業価値認知につながると企図しているわけです。
そして、近年、日本企業においてもアートへの取り組みが加速しています。メーカー企業が、商品の差別化戦略としてアーティストとコラボレーションする事例は、日本でも一般化しつつある活用ケースですが、昨今の新たな潮流は、富裕層をターゲットとする企業がアートの活用に取り組んでいる点です。これは、現代アート作品を購入する富裕層が増えていることが背景としてありますが、銀行が店舗で現代アート作品を展示したり、証券会社が顧客向けにアートフェアツアーを開催したり、顧客とのコミュニケーションツールとして、アートを活用するケースが増えています。
また、新規事業としてアートに取り組む企業も増えています。不動産企業によるアートのECサービス、通信企業によるアート教育のオンラインサービス、エンタテインメント企業によるアートの動画コンテンツ配信サービスなど、様々な業種の企業が、アートコンテンツを核とした新規事業を立ち上げています。 そして2022年、ついに経済産業省は「アートと経済社会について考える研究会」を発足しました。アートと企業・産業の関わりが加速化する中で、国としても、アートを取り巻く市場の変化は、もはや無視できなくなってきている状況と言えそうです。




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