アフターコロナの健康キーワードは?

 街や観光地、駅・空港に溢れる人、人。

 本格的なポストコロナ時代がやってきました。3年におよぶ活動停滞期間を経て新たな日常が始まったわけですが、世界が畏怖した新型コロナ感染症(以下コロナ)の洗礼を受けた私たちの健康観や指向はどこに向かうのでしょうか。


 コロナに向き合った期間、世界で免疫への関心が高まりました。
 コロナが蔓延し始めた時期に行われたGoogle Trendを分析した研究では、「免疫と関係する栄養素・食品」として西欧で多く検索されたワードのトップは「ビタミンD」でした(Nutrients. 2020 Oct; 12(10): 3103.)。ビタミンDにはインフルエンザ罹患率やがんリスク低減という研究結果も多く報告されており、西欧ではそれが広く知られているからだと思われます。一方、同じ時期に日本で行われた「免疫のことを考えて何をとるか」(日本トレンドリサーチなどが実施)という調査では、ヨーグルト、納豆が1、2位を占める人気で、発酵食品への高い支持が見られました。
 ここに日本人の健康意識の一端が表れています。それは、腸に対する高い関心です。免疫というキーワードと絡めても、腸に作用する食品が支持を集める結果になっているのです。
 初めて「免疫機能の維持」という機能性表示を申請したキリンの『iMUSE(イミューズ)』をはじめとするプラズマ乳酸菌入り商品群も、腸から免疫に働きかける食品です。
 もともと日本語には「断腸の思い」「片腹痛い」「腹を割って話す」など、お腹と脳・心が深く関係することを示唆する“腹言葉”が多いのですが、こうした健康観が日本国民の“腸活好き”に影響を与えている可能性があります。






「腸活」に変わる王者はいつ現れるのか

『iMUSE』以外にここ数年話題になった健康ジャンルのヒット商品を見てみましょう。すると、ヤクルト本社の『Yakult(ヤクルト)1000』も『オートミール(関連商品全般)』も、乳酸菌、食物繊維という腸に働く素材が機能性成分です。
 『Yakult1000』は“ストレス緩和、睡眠の質向上、腸内環境改善”という3つの機能性を表示する機能性表示食品、オートミールは原料のオート麦(えん麦)に含まれるβ-グルカンという水溶性食物繊維で腸を整えます。数年前に、もち麦のヒットを生み出すエンジンになったのも同じβ-グルカンでした。食物繊維に対する興味が対象を変えつつ続いていることがわかります。
 ウェルネス総合研究所が2022年に20代~70代までの男女約4600人に対して行った調査で健康関連ワードの認知度を見ると、1位の「発酵食」を筆頭に、「腸活」「雑穀食・雑穀米・雑穀シリアル」という腸がらみのキーワードが5位以内に3つも入っています(下グラフ)。これらは、摂取・実践意向でも高スコアになっているのです。


(データ:ウェルネス総合研究所「ウェルネストレンド白書 Vol.2(2022年5月発行)」トレンドワード認知度ランキングより)


QOLを向上させる商品ジャンルに注目

 「腸活」というキーワードの人気はまだまだ続きそうですが、『Yakult1000』は腸活を新しい注目キーワードと紐付けることに成功しました。“睡眠、ストレス”といったQOL(生活の質)向上に関わるジャンルを切り開いたわけです。
 このところ、身体的健康に加えて、心も社会(環境)的にも満たされた状態を実現しようという「ウェルビーイング」を掲げる企業が多くなりました。かつて健康にかかわる商品は血糖値、中性脂肪、体脂肪といった客観的に測定できる指標で評価されることが大多数でしたが、QOLを高める幸福感、満足感、爽快感、疲労改善感といった主観的な評価が大切になってきたということです。
 腸とメンタル(脳)をつなぐのは自律神経。ウェルビーイング時代の健康商品に求められる機能の一つは、“自律神経調整”機能ということになりそうです。



エナジードリンクやホタテで健康寿命が伸びる⁉ タウリン研究の衝撃

 2023年6月、よく知られたアミノ酸・タウリンの補給が、健康長寿に役立つかもというニュースが世界中で報じられました。元になったのは、世界的な科学誌『Science』に掲載された「タウリン欠乏が老化促進の原因になる」という研究論文です(Science. 2023 Jun 9;380(6649):eabn9257.)。
 この研究では、加齢とともにタウリンの体内濃度が減ること、しかしタウリン濃度が高い人たちでは2型糖尿病や高血圧、肥満のリスクが低く健康なこと、また運動をすることでタウリン濃度が増えることが確認されました。さらに、毎日タウリンを摂取したマウスでは寿命が10%以上延伸したのです。これはヒトでは7~8年分の寿命延長効果に当たります。タウリンの補給をすれば健康寿命が伸びるかもというわけです。
 日本では、タウリンは疲労回復・滋養強壮をうたう医薬部外品のドリンク剤に使われる医薬品成分のため、清涼飲料水などに配合できませんが、欧米では清涼飲料水ジャンルのエナジードリンクの主成分になっています。そのため、「エナジードリンクで老化が抑えられるのか?!」という驚きが広がったのです。
 カキやホタテ、アサリ、タコなどにはかなりの量のタウリンが含まれるので、加工食品や飲料に配合できない日本では、仕掛け方次第によって、タウリンを多く含む魚介の人気が一気に高まるかもしれません。
 昨今、先進国が軒並み長寿社会に突入したことを受け、老化を遅らせ、健康寿命を伸ばす可能性がある薬品や食品、生活習慣の研究が盛んになっています。この背景には、老化進行の7割程度まで生活環境因子が関与していることや、どのように老化が進むかという分子メカニズムが解明されてきたこともあります。





個別化された商品・サービスで
健康寿命延伸を計る

 では、どんな成分が老化を遅らせる有力候補になっているのでしょうか?
 現在サプリメントで商品が販売されているものでは、食材に広く微量に含まれるビタミンB3の一種NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)があります。この成分は摂取後体内でNAD⁺という形に変化し、長寿遺伝子とミトコンドリアを活性化して若さ維持に働くとして注目を集めています。
 1カ月分のサプリメント代が数万円する成分にもかかわらず、『健康産業新聞』が実施している健康食品受託加工・製造企業対象の「人気受注素材調査」(23上期実績/23下期予想)では、NMNが1位の乳酸菌に次ぐ2位にランキングされているほど(その前2年間は1位だった)。
 食品に含まれる成分では、他に納豆などに多い有機化合物スペルミジン、イチゴに多く含まれるポリフェノールであるフィセチン、タマネギやブロッコリーに多いポリフェノール・ケルセチン、薬では抗糖尿病薬のメトホルミン、免疫抑制剤のラパマイシンなどが、健康寿命を延伸する可能性がある成分として研究が進んでいます。
 さらに、タウリンのように、よく知られた食品成分や薬品で新研究が発表され、突然、“新顔”として人気を博することもありえます。この分野の研究動向からは目を離せません。

 近い将来、個人個人の老化ペースや何歳くらいの生物学年齢かを計測できる「Aging Clock(老化時計)」が登場してくるでしょう。どんな原因で実年齢以上に加齢してしまっているのか、それを止めるにはどうすればいいのかがわかるようになります。
 そして、個人ごとの体質や生活環境、加齢や疾患リスクの進行状況に合わせて「いつ、何をどう食べれば効果的か」「いつ、どんな運動や行動をとるのが効果的か」といった提案が行える日が刻一刻と近づいています。
 このような「Precision Nutrition(精密栄養)」「Precision Physical Activity(精密身体行動)」に基づいた商品やサービスが、いずれ続々登場してくるでしょう。
 23年4月にカルビーが販売を開始したサブスクタイプのグラノーラ『Body Granola(ボディグラノーラ)』はその先駆け的サービスの一つと言えます。購入者の腸内環境を検査し、57タイプから最も近いタイプを特定し、その腸内菌叢に合った配合のグラノーラを届けるというものです。
 睡眠や心拍データを毎時記録するウェアラブル端末などの一般化によって、すぐに実感を得にくいタイプの商品・サービスでも、日々体内に変化を起こしていることが可視化されつつあります。こうしたテクノロジーの進歩の追い風も受け、健康市場は確実に個別化の方向に歩みを進めて行くことでしょう。



西沢邦浩
日経BP 総合研究所メディカル・ヘルスラボ 客員研究員
小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。18年3月まで、同社マーケティング戦略研究所主席研究員。同志社大学生命医科学部委嘱講師。著書に「日本人のための科学的に正しい食事術」、共著に「ヒットする!食品の機能性マーケティング」など。

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