英国政府は11月16日、2024年度に実施予定の「再エネCfD制度」に基づく第6回目の入札(ラウンド6、以下R6)の上限価格を公表し、洋上風力発電の上限価格を一気に66%引き上げた。英国政府は50GWの風力導入目標を堅持するために、価格重視の入札方針を抜本的に見直したのだ。
一方、11月14日に経済産業省が提示したR3の価格案は、インフレ情勢を反映せず、ゼロプレミアム水準の3円を維持し、上限価格19円から18円へ引き下げるものだった。英国と日本の対応は明確なコントラストを描く結果となった。

(出所:123RF
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 英国は、かねて環境政策を重視してきた国だ。2019年5月には、世界に先駆けて2050年に温室効果ガス排出量ネット・ゼロを宣言した。再エネの普及拡大をエネルギー政策の主役に位置付け、推進策として2014年度に「再エネCfD制度」を導入し、着実に成果を上げてきた。同制度で落札・実施された再エネ事業は30GWに上る。

 再エネCfD制度とは、英国政府が年1回実施する再エネ電源を対象にした入札制度のこと。CfDは差額決済契約(Contracts for Difference)という意味だ。政府は落札価格と電力市場価格の変動する差額をプレミアムとして補填する手法から、こう名付けられている。落札事業者は実質、15年間にわたり政府が設定した上限価格の下で落札した固定価格で売電できる。

 英国の2010年の再エネ電力比率は6%だったが、2023年第1四半期には48%にまで高まった。特に洋上風力に力を入れており、2030年50GW稼働を目標に掲げる。この50GWのうち5GWは浮体式である。

 洋上風力は現在、14GWが運転中で、中国に次いで第2位の導入量を誇る。1GW超の大規模事業も多く登場している。再エネCfD制度は事業量の確保とコスト低下の両立を成功させてきたとして、英国が誇る制度であった。

英国政府に方針転換を促した事業者ボイコットと入札ゼロ

 しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻などを背景とした急激なインフレにより、英国政府が定める落札条件と実際のコストが乖離してしまう。インフレ前に落札した事業者は苦境に陥っていた。

 2023年7月20日には、スウェーデン・バッテンフォールがR4で落札した「ノーフォーク・ボレアス事業」(1.4GW)からの撤退を表明した(表1)。同社は、風車価格は約4割上昇しており、英国政府が再エネCfD制度の条件の見直しや追加支援策を用意しなければ事業が成り立たないと主張した。
 
 英国政府が9月8日に公表したR5の入札結果は、洋上風力の応札がゼロだった。表2に示したように、事業環境が大きく変化しているにもかかわらず、R5で提示された上限価格は、陸上風力53ポンド/MWh、太陽光47ポンドとR4とほとんど変わらなかった。それでも陸上風力と太陽光は落札案件があった。だが、洋上風力は着床式が46ポンドから44ポンドに低下、浮体式も122ポンドから116ポンドに減額され、応札がゼロだったのだ。

 再エネ事業者は、英国政府の判断を強く批判し、再エネCfD制度への入札をボイコットしたのだ。エネルギーコスト上昇への懸念、そして導入量の拡大と価格低下の両立を実現してきた再エネCfD制度の成功体験が英国政府の判断を鈍らせたのだろう。

 野党である労働党はこうした状況を「an energy security disaster」(エネルギー安全保障崩壊)と称した。

 また、識者からは、エネルギーコストは、天然ガス価格の大幅高騰という形で既に影響が生じており、洋上風力は設備などのコストが上がったとしても、新設コストはガス火力発電の2分の1で済むという批判も生じた。

 こうした世論の反発は、5月11日に公表されたアイルランドのR1の好結果も影響していると考えられる。アイルランドは上限価格を150ユーロ/MWhに設定し、設備などの価格エスカレーション条項を設定するなど事業者への配慮を織り込んだことで、アイルランド政府の想定以上の落札量を確保したのだ。

 インフレに伴うコスト高によって、落札条件と実際にかかる費用との乖離が顕在化し、英国だけでなく米国でも複数の再エネ発電事業者が撤退や巨額の減損処理を決めている。最近では、世界最大の風力発電事業者デンマーク・オーステッドが米国で2事業からの撤退を表明した(「世界最大の洋上風力発電事業者オーステッドが2事業中止の衝撃」)。

急激なインフレによって風力発電事業者は苦境に陥った
急激なインフレによって風力発電事業者は苦境に陥った
表1●最近の欧米日洋上風力を巡る情勢(出所:各種情報より著者作成)

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