六甲山の北20キロほどにある閑静な田園都市・兵庫県三田市で、国内自動車産業の危機、ひいては日本の未来を救うかもしれない技術の開発が進んでいる。技術の名は「Dynamic AGE-ing」。品質基準に満たない炭化ケイ素(SiC)ウエハーを良品に改質し歩留まりを上げるものである。電気自動車(EV)向けSiCパワー半導体に使われるSiCウエハーの調達難を解決できる可能性を秘めている。Dynamic AGE-ingは、関西学院大学が今年(2023年)3月に設立した技術系スタートアップ「QureDA Research」のCTO(最高技術責任者)を務める金子忠昭氏(関西学院大学教授)が開発し、長年、実用化と装置化を進めてきたもの。SiCウエハーの供給・調達難の問題に頭を悩ませるウエハーメーカーやSiCパワー半導体デバイスメーカー、さらにはEV関係者が熱い視線を送り、世界中から三田市に集結する。QureDA Researchでは2025年末から26年にかけて量産対応をさせる考えだ。本記事では技術の詳細を見ていく。(全2回、本記事は後編)

脱炭素化の大きなうねりの中で、電気自動車(EV)の市場が急拡大している。市場獲得競争の第1ステージは米テスラや中国BYDなど、新興メーカーの勝利で決着した。今は第2ステージに入り、既存の自動車メーカーがどこまで巻き返せるか焦点となっている。新興メーカーがさらに勢いを伸ばしていくか、それとも既存の自動車メーカーが反転攻勢で市場を獲得していくのか、この先2、3年の綱引きが世界の自動車産業の未来を大きく変えていくことになる。

EV市場競争の第2ステージでは、SiCインバーターと、それを作るためのSiCパワー半導体デバイス、さらには、その材料の、良質かつ安価なSiCウエハーの調達が大きな意味を持ってくる。SiCパワー半導体デバイスとは、シリコン(Si)と炭素(C)で構成される炭化ケイ素(SiC)という半導体材料を使ったパワー半導体デバイスのことである。従来のSiパワー半導体デバイスに比べると、電流コントロールが速く電力損失を大きく減らせる。EVのモーターを駆動・制御するインバーターにSiCパワー半導体デバイスを使うと、従来のSiインバーターに比べて電力損失が半分以下になり、航続距離を大きく延ばせる上に小型軽量にできる。このため、最新モデルのEVには軒並みSiCインバーターが搭載されている。

現在のEV新型モデルは「SiCインバーター」搭載が前提

実際に、テスラやBYDをはじめ、韓国Hyundai Motor(現代自動車)、日本のトヨタやホンダなど、多くのメーカーが自社の最新EVモデルにSiCインバーターを搭載してきており、今後は、EV向けインバーターの標準がSiCインバーターとなってくる。

こうした状況下で、EVを生産するサプライチェーンの起点となる材料、SiCバルクウエハーの調達難が大きな問題になり始めている。

【前編記事はこちら】
『今後の日本を支えるパワー半導体の材料開発 EV反転攻勢を可能にするSiC結晶の新技術とは(前編)』

SiCバルクウエハーという大元の材料が手に入らなければ、SiCパワー半導体が作れず、それを組み上げて作るSiCインバーターも作れない。SiCインバーター搭載が前提となっているEVのサプライチェーンはそもそも成立しなくなってしまう。SiCバルクウエハーの生産拡大が強く望まれているが、ウエハーメーカー側は、その製造技術の難しさ故に、安価で良質なSiCバルクウエハーの供給量をなかなか増やせずにいる。

これからの数年は、新興のEVメーカーも既存の自動車メーカーも、SiCインバーター搭載のEVをどんどん出していきたい。ただでさえ調達が難しいSiCバルクウエハーはますます足りなくなる可能性が高いのだ。SiCバルクウエハーの口径を現在主流の6インチ(約150ミリ)から8インチ(約200ミリ)に大口径化すれば供給も増えるしコストも下がるという期待はあるが、8インチウエハー製造の難しさはこれまでの6インチウエハーの比ではない。8インチにすることでむしろコスト高となってしまうという見解も出ている。

SiCインバーター搭載のEVの構造と(下)、SiCインバーターが出来るまでのサプライチェーンをビジュアル化したもの(左)。
[画像のクリックで拡大表示]
SiCインバーター搭載のEVの構造と(下)、SiCインバーターが出来るまでのサプライチェーンをビジュアル化したもの(左)。
(サプライチェーンの図提供:QureDA Research)

SiCウエハー調達難の打開策として急浮上してきた「Dynamic AGE-ing」

こうした状況下で大きな注目を集めているのが日本発の「Dynamic AGE-ing」という、SiCバルクウエハーの品質を改善する技術(改質技術)である。開発したのは、2023年3月に設立された技術系スタートアップのQureDA Research(キュレダリサーチ)で代表取締役CTO(最高技術責任者)を務める金子忠昭氏(関西学院大学教授)である。QureDA Researchの出資母体は関西学院と豊田通商で、それぞれが50%ずつ出資して設立された。

金子氏は次のように語る。

「2024年以降、SiCインバーター搭載のEVがどんどん増えていきますから、ただでさえ足りない良質のSiCバルクウエハーがさらに足りなくなります。日本の自動車産業がEVで反転攻勢をかけるためには、この数年の間に、安価で良質なSiCバルクウエハーをある程度まとまった量で確保する必要があります。しかし、今現在、SiCバルクウエハーの増産に応えられるメーカーは多くありません。そこで、この問題を解消する手段として我々が開発したDynamic AGE-ingを使えば、品質基準で1ランク下のSiCバルクウエハーを、EV向けSiCパワー半導体デバイスに使える品質基準に引き上げることができ、コストも下げられます。しかも、この数年の急場をしのぐだけではなく、その後の生産拡大フェーズでもコストダウンに大きく寄与できるのです」。

QureDA Researchの代表取締役社長には豊田通商から瀬川恭平氏が就き、金子氏は代表取締役CTOとして技術の実用化を急ぐ。今後は、この会社を中心に、自動車メーカーやインバーターを作るティア1、さらにはSiCバルクウエハーメーカー、SiCパワー半導体企業などとアライアンスを結び、先方の企業に実用技術として提供していこうとしている。金子氏は「毎日のようにアライアンスの相談がある状況だ」と語る。

写真は技術系スタートアップのQureDA Research設立発表の時(2023年3月22日)のもの。右から順に、関西学院大学の村田治学長(兼・関西学院副理事長)、金子忠昭QureDA Research  代表取締役CTO(兼・関西学院大学教授)、豊田通商からQureDA Research代表取締役社長に就いた瀬川恭平氏、豊田通商執行幹部の国弘浩介氏。肩書きはいずれも発表時のもの。
写真は技術系スタートアップのQureDA Research設立発表の時(2023年3月22日)のもの。右から順に、関西学院大学の村田治学長(兼・関西学院副理事長)、金子忠昭QureDA Research 代表取締役CTO(兼・関西学院大学教授)、豊田通商からQureDA Research代表取締役社長に就いた瀬川恭平氏、豊田通商執行幹部の国弘浩介氏。肩書きはいずれも発表時のもの。
(写真提供:QureDA Research)

熱反応でウエハー表面を改質する「Dynamic AGE-ing」

では、Dynamic AGE-ing技術とはどういうものなのだろうか。詳しく見ていこう。

金子氏は、「QureDA Researchでは、アライアンスを前提としていて特許戦略が重要になってきますので、すべてを開示するわけにはいきませんが、本質的なところだけを説明すると」と前置きした上で、次のように整理してくれた。

改質したいSiCバルクウエハーをある特別な材質の容器内に入れ、Dynamic AGE-ing装置内で2000℃前後の高温で加熱をする。これによってSiCバルクウエハー表面が削られる「エッチング」、「新たな結晶成長」(成膜)、結晶構造を整える「アニーリング」という3つの現象を自在にコントロールすることが可能となり、SiCバルクウエハー表面の品質を向上することができる。

(1)エッチング
 (2)新たな結晶成長(成膜)
 (3)アニーリング

(1)の「エッチング」というのは、SiCバルクウエハーの表面からケイ素(Si)の原子や炭素(C)の原子が脱離していく現象で、脱離とともに、ウエハー表面の機械加工ダメージ層が除去されるイメージで捉えればいいだろう。(2)の「新たな結晶成長」というのは、SiCバルクウエハーの表面にSi原子やC原子が吸着して結晶成長が進む現象のことであり、高温下で品質の高いSiC結晶が積み上げられていく現象である。(3)の「アニーリング」とは、日本語で言うと「焼きなまし」のこと。SiCバルクウエハー表面にあるSi原子やC原子がウエハー表面上を自由に動き回りながら、表面のSiC結晶の構造が自然と整っていく現象である。

この3つの現象を自由自在にコントロールできることによってSiCバルクウエハーの荒れた表面をどんどん滑らかにできるイメージを考えればいい。具体的には、SiCバルクウエハーの表面が、(1)削られたり、(2)新たに結晶が成膜されたり、(3)Si原子やC原子が移動・拡散しながら、表面の結晶構造が自動的に整っていくというものになる。

Dynamic AGE-ing技術の原理をイメージ化したもの。
Dynamic AGE-ing技術の原理をイメージ化したもの。
(図提供:QureDA Research)

一般に、Si半導体の製造プロセスでも、エッチングや成膜といった工程が用いられるが、ガスを電気的に分解した「プラズマ」というものが使われることが多い。これは、特殊なガスを電気的に分解してイオンや電子が激しく飛び交う状態にしたものであり、プラズマを利用して材料を削ったり(エッチング)、成膜したり(CVD:Chemical Vapor Depositionなど)させる。しかし、Dynamic AGE-ingではこうしたプラズマを使わない。「純粋に熱だけで反応させ、自発的にSiCバルクウエハー表面の結晶構造を整えていくプロセスです」と金子氏は説明する。

“悪さ”をする結晶欠陥がほぼゼロになる

世界中のSiCウエハーメーカーやSiCパワー半導体デバイスメーカーの関係者を驚かせているのは、Dynamic AGE-ingの改質効果の大きさである。

SiCパワー半導体デバイスの品質に悪影響を与える結晶欠陥にBPDとSFというものがある。BPDはBasal Plane Dislocationの略で、日本語では「基底面転位」などと呼ばれる結晶欠陥のこと。SFとはStacking Faultの略で、面状に広がる「積層欠陥」と呼ばれるものである。SiCバルクウエハーをDynamic AGE-ingで改質するとこのBPDがほぼゼロになり、SFやその原因となる表面の歪みなどが大きく減らせることがわかっている。特にBPDについては凄まじいほどの改善効果がデータとして出されている。

Dynamic AGE-ing技術を実際のSiCバルクウエハーに適用すると、表面が大きく改質されることが観察できている。図は、Dynamic AGE-ingの適用によってビフォー・アフターを電子顕微鏡(SEM)で観察したもの。大きな改善効果があることがよくわかる。
[画像のクリックで拡大表示]
Dynamic AGE-ing技術を実際のSiCバルクウエハーに適用すると、表面が大きく改質されることが観察できている。図は、Dynamic AGE-ingの適用によってビフォー・アフターを電子顕微鏡(SEM)で観察したもの。大きな改善効果があることがよくわかる。
(図提供:QureDA Research)

金子氏は、異なるウエハーメーカー数社からSiCバルクウエハーを入手しDynamic AGE-ingで表面処理を試み、1cm2当たりで数千から2万ほど存在したBPDがウエハー全面でほぼゼロになることを示した。現状で手に入るSiCバルクウエハーでは、1cm2当たりの密度で言うと数千程度の密度でBPDが存在している。Dynamic AGE-ingを使えばこれをほぼなくすことができる。

Dynamic AGE-ingでSiCバルクウエハーを改質するとBPDとSF、バルクウエハー表面の歪みなどが激減するため、この後の工程、つまり「エピタキシャル成長」による高品質SiC結晶層(エピ層)の成長工程にも好影響が出てくる。すなわち、エピ層の品質も上がり、エピ層に作り込むSiCパワー半導体デバイスの歩留まりや性能、信頼性の向上にもつながるのである。

異なるウエハーメーカーから入手したSiCバルクウエハーをDynamic AGE-ingによって改質処理すると、BPDという結晶欠陥がほぼゼロになることがわかっている。
異なるウエハーメーカーから入手したSiCバルクウエハーをDynamic AGE-ingによって改質処理すると、BPDという結晶欠陥がほぼゼロになることがわかっている。
(図提供:QureDA Research)

SiCウエハーの製造プロセスがガラリと変わる

Dynamic AGE-ingを使うとSiCバルクウエハーの品質が上がるだけでなく、ウエハー(バルク、エピ共に)製造プロセスが大きく変わり大幅なコスト削減ができる、というのが金子氏の主張である。

「Dynamic AGE-ingは、SiCのインゴットから1枚ずつ円盤状に切り出した後の工程で力を発揮します。具体的には、一枚一枚の円盤状に切り出した後に、ラッピングや研削という機械加工工程、そしてCMP(Chemical Mechanical Polishing)という、表面に化学変化を起こさせ研磨剤を使って磨き上げる機械工程がありますが、非接触の技術であるDynamic AGE-ingを使うことで、この機械加工の工程を大きく簡略化できるのです」と金子氏。

現在のウエハー製造工程で行われているラッピングやCMPには長い時間と手間がかかる。ウエハー製造プロセスの中でも高いコストがかかる工程として知られている。Dynamic AGE-ingではここを簡略化できるため大きなコストダウン効果が見込める。しかも、「機械加工の工程が簡略化できるため、この工程に由来して生じるウエハー表面に入ってしまう加工歪みを減らせます」と金子氏。研削・研磨することでどうしてもウエハー表面に力がかかって歪みが生じたり表面上は見えない結晶構造の乱れが生じたりしてしまう。Dynamic AGE-ingで機械加工工程を簡略化できれば、こうした歪みや結晶構造の乱れを減らすことができ、その結果、パワー半導体デバイスの歩留まりや性能、信頼性などに悪影響を与える結晶欠陥も削減できるということになる。

しかも、異なるウエハーメーカーから供給されたSiCバルクウエハーをDynamic AGE-ingで改質すれば、メーカーごとの品質のバラつきも減らせる。コストダウンが図れるだけでなく、メーカーの選択肢を増やせるため調達リスクも減らせるという。

Dynamic AGE-ingを使えば、ラッピング/研削やCMPといった機械加工の工程が大きく簡略化できる。
[画像のクリックで拡大表示]
Dynamic AGE-ingを使えば、ラッピング/研削やCMPといった機械加工の工程が大きく簡略化できる。
(図提供:QureDA Research)

量産適用はいつか

Dynamic AGE-ingは量産適用に向けて順調に開発が進んでいるという。「2024年中には量産に適用させ、2025年末から2026年にかけては生産ラインにDynamic AGE-ingの量産装置が並んでいるようにしたい」と金子氏。

Dynamic AGE-ingはウエハーメーカーが導入してもいいし、SiCパワー半導体を作る企業が導入してもいい技術である。もしくはSiCインバーターやEVを作る企業が自社の生産ラインに入れてもいい。目的は、1ランク品質の落ちる安いSiCバルクウエハーをこの技術によって改質し、SiCパワー半導体デバイス製造に使える品質に高めることであり、それができればどのプレイヤーの生産ラインに入ってもいいものだ。

Dynamic AGE-ingの量産適用時期について語る金子氏。
Dynamic AGE-ingの量産適用時期について語る金子氏。
(写真:高山和良)

金子氏は「Dynamic AGE-ingは、6インチにも8インチにも適用できる技術です。既に8インチのSiCウエハーでパワー半導体の量産ラインの計画を立てているところも導入できます。SiCバルクウエハーやSiCエピウエハーの8インチ生産ラインはもちろん適用できますし、デバイスメーカーやインバーターを作る企業の生産ラインにも入れることができます。どこで使ってもSiCバルクウエハーの歩留まりを上げられますから、現在の調達難の状態は緩和できるはずです。結果として、EVを作る企業は自社EV向けにSiCパワー半導体とSiCインバーターをもっと容易に入手できるようになります。調達難だけではなく、その後、潤沢にバルクウエハーが手に入るようになったときにもコストダウンに利くものです」と結論づける。

さらに、「Dynamic AGE-ingは、かねてより評価技術も一緒に開発し、改質と評価の装置化を同時並行で進めています。評価技術がなければ改質の程度もわかりませんし、驚くことに、これまでSiCバルクウエハー全面の加工歪みを適切に評価できる技術がなかったのです。改質技術と評価技術を総称したものがDynamic AGE-ingです」と続ける。

他社とのアライアンスをベースに社会実装

Dynamic AGE-ing技術は、先に述べたように、関西学院と豊田通商のスタートアップ企業であるQureDA Researchを通じて世に出て行くことになる。具体的には、QureDA Researchとアライアンスを結んだ先の企業の生産ラインに実装されていく。提携先は、自動車メーカーやティア1、パワー半導体メーカー、SiCウエハーメーカー、装置メーカーなど多岐にわたる。

金子氏は、関西学院大学でこの技術を引き続き開発・実用化していきながら、QureDA ResearchのCTOとして他社との連携を図っていく。

金子氏は次のように語る。「私としては、この技術によって日本のEVの反転攻勢が遅れないようにできたらと考えています。根っこのところには、国内自動車産業が衰退しないようにしたい、日本のものづくりの弱体化を防ぎたいという気持ちがあります。ですから、アライアンスもそういう観点で考えたい。最終的に日本のためになるのであれば海外の企業もウェルカムです。もちろん、その企業にもメリットがあるようになります。」

QureDA Researchの事業モデルのイメージ。
[画像のクリックで拡大表示]
QureDA Researchの事業モデルのイメージ。
(図提供:QureDA Research)

2023年10月(10月6日)には、トヨタがQureDA Researchに協力することが正式に発表された。Dynamic AGE-ingの量産技術開発を加速するために「技術開発業務委託契約」を結んだのだ。自動車産業の顔である同社がQureDA Researchに参画することの意味は重い。金子氏とQureDA Research、そして豊田通商とトヨタが今後どのようにDynamic AGE-ing技術を実用化し、社会実装していくのか。日本の自動車産業の未来のみならず国としての未来にも直結する話だけに、今後の展開から目が離せない。そして、その答えはこの1年のうちに見えてくる。

SiC問題の真の重要性は、視点を変えて初めて見える

SiCバルクウエハーという一つの材料の調達問題が、下手をすると日本の自動車産業の未来を大きく左右するという視点は、筆者には最初、なかなか見えなかった。今、「半導体」というと、世間の目も技術関係者の目もいわゆる、「Siデジタル半導体」の再生の方向に行きがちである。どうしても、ロジック半導体やメモリーの再生や強化に目が向く。

そして、この視点で眺める限り、SiC問題の“真の重要性”はなかなか見えてこない。一つの大きな課題ではあるが、パワー半導体というジャンルの中のワンテーマに見えてしまう。最優先は国内のデジタル半導体産業の再生であり、大きな国の予算が投入されるラピダスや台湾TSMCの問題、そして半導体の最先端技術をいかに国内に取り戻していくかということになるし、一般メディアもそちらを大きく報道する。

米国や台湾との連携、さらには設計技術をどうするか、人材育成をどうするか、チップレットや光電融合などの次のステップにも注力すべき問題は山積みであり、これは自然なことでもある。SiCの問題は、半導体産業の枠組みで見る限り、どうしても埋もれる傾向にある。

ところが、視点を変えて自動車業界の存亡の危機と捉えると、俄然、SiC問題の見え方が変わってくる。「たかだか結晶材料のこと」と高を括ってはいられない。EVのサプライチェーンがその大元で断たれてしまいかねない大問題である。最悪ケースを考えれば、今や日本という国を支える大黒柱である「自動車産業」の競争力が失われる可能性すら否定できない。このような、SiCの”真の重要性”と現状の課題を自動車関係者と半導体関係者が正しく共有し、業界の枠を超えて深くすり合わせ、人・モノ・金のリソースを集中して課題解決に当たることが今求められているのではないだろうか。

SiCの問題を半導体産業の中にある課題と見るのではなく、自動車産業の中に置いてみると、その重要性が認識できる。
[画像のクリックで拡大表示]
SiCの問題を半導体産業の中にある課題と見るのではなく、自動車産業の中に置いてみると、その重要性が認識できる。
(図作成:筆者)