給与を自分で決めるなどのユニークな制度で知られるIT企業、「ゆめみ」(前編)。自由と自律を軸に成長を遂げ、最近では就活生も注目しているという。そんなゆめみが社員の健康とウェルビーイングに力を入れ始めた。同社のウェルビーイング担当取締役の柴田純治氏、キャリアコンサルタントの資格を持つ「ゆめみ保健室」担当の佐久間史子氏に、“疲弊しないIT人材のあり方”について聞いた。

ときにはプライベートな相談も、思いを吐き出せる社内の“保健室”

――佐久間さんはキャリアコンサルタントやEAPメンタルヘルスカウンセラーとして、「ゆめみ保健室」の責任者を務めています。キャリアとメンタル不調に寄り添う社内相談室とのことですが、立ち上げようと思った経緯は。

佐久間 キャリアコンサルタントになったことは、私にとって大きなキャリアチェンジ。今でもカウンセラーになったのが信じられません。何しろ保健室を立ち上げる前は7年半の間、案件のプロジェクトマネージャーを担当していた人間ですから。

プロジェクトマネージャー時代、自分のチームの採用に携わるようになったんです。人を1人受け入れることは、その人の人生を預かるようなものですよね。そこから、ゆめみに入社した人にどのようにキャリアを積み上げてもらうかをすごく考えるようになり、国家資格のキャリアコンサルタントを取得。ちょうど2018年のことで、まさに「アジャイル組織宣言」(編集部注:進化的な発達を伴いながら、秩序(3つの原則)を保つことによって、予測できない混沌とした環境においても組織が自己設計され、結果として適応的である組織)を契機とするゆめみの変革期と重なりました。

資格を取得した後、意外と多くの社員がキャリアの悩みを抱えていることに気づきました。組織改革以降に入社した人はそれが当たり前ですが、今までいた人たちは突然上司がいなくなり、自分ですべてを決めましょうというルールになったので、キャリアの迷子になる人が増えたのです。そうこうするうちにキャリアコンサルタントの資格を持つ私に悩み相談が舞い込むようになり、今後ゆめみが大きくなっていくのであれば専門の部署を作ったほうがいいと思い、ゆめみ保健室を立ち上げました。

ゆめみ保健室を担当する佐久間史子氏。ゆめみで働きながらキャリアコンサルタントとEAPメンタルヘルスカウンセラーの資格を取得した(出所:ゆめみ)
ゆめみ保健室を担当する佐久間史子氏。ゆめみで働きながらキャリアコンサルタントとEAPメンタルヘルスカウンセラーの資格を取得した(出所:ゆめみ)
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――保健室とは秀逸なネーミングです。

佐久間 高校生の頃、用事がなくても自分が何となく行っていたのが保健室だったので、これなら敷居が低いだろうと考えてこの名前にしました。一般的なカウンセリングルームといった名称だと、男性が多い職場なので来ないだろうなと。代表の片岡(俊行氏)も、わずか数秒で「保健室、いいね!」とOKを出してくれましたし(笑)。

実際に計画を立てたのは4年ほど前でしたが、その途端に新型コロナに襲われてフルリモートになってしまいました。コロナが理由かどうかは定かではないものの、メンタル不調の社員が増えてきたこともあり、仕事をしながら学校に通ってEAPメンタルヘルスカウンセラーの資格を取得しました。キャリアの悩みがメンタル不調につながることもあれば、その逆もあるからです。

保健室を開始したのは2022年2月。予想以上に相談件数が多くて驚きましたね。相談はすべてオンラインで行なうので、匿名性が担保されることも影響しているのだと思います。そのうち、4割はメンタル不調の相談です。ある調査では、仕事に対して何かしらのストレスを抱えている人が58%いるとの結果が出ていますが、大企業のカウンセリング担当者に聞くとメンタル不調の相談件数は月に数件だそうです。その奥には、相談したいけれども我慢している人がたくさんいるはずです。だから4割は多いように見えますが、私はある意味で健全な相談数だと考えています。

4割の相談があって休職が増えたかといえばそうではなく、むしろ減っています。メンタルが悪化する前に保健室に来て悩みを言語化して吐き出してほしいのが狙い。それだけでも人は心の整理ができるので、相談が予防につながることを目的にしています。つくづく、「人は誰かに話を聞いてもらいたいんだな」ということを目の当たりにしました。

――場合によってはプライベートな相談までしているとか。

佐久間 はい。悩みの原因はプライベートなこともありますから。そのもやもやを抱えたままだと業務の生産性は下がってしまうため、プライベートな相談なども引き受けるようにしています。また、保健室の活動をX(旧Twitter)でも発信しているので、ほかの企業からも参考にしたいとの声が寄せられています。将来的には、ゆめみ保健室が他社のモデルケースとなることが理想です。

片岡もメンタルヘルス対策はコストではなく人材投資だと明言しています。トップがそこまで明言する企業はまだまだ少なく、とくにIT分野は遅れています。ただ、企業内のキャリアコンサルタントやEAPは年々増えているので、いつかは保健室ののれん分けをしていきたいですね。