徹底的に「研ぎ澄まされた」Webサイト

――デジタル庁のWebサイトが「見やすい」、「分かりやすい」と評判です。デジタル領域のデザインの専門家として、ご覧になってどのような感想を抱いたでしょうか。

齋藤恵太氏(以下、齋藤)私が真っ先に感じたのは「すごいな」でした。何が「すごい」のか。省庁や自治体など公共性が高い組織には、とても多くのステークホルダーがいます。「ああして欲しい、こうして欲しい」が押し寄せてくる。ましてやデジタル庁は国のデジタル政策の舵取りを担いますから、国、全省庁、国民と密接に関わる横断組織です。

デジタル庁のホームページ。シンプルな構成は他省庁のサイトとは一線を画す(出所:デジタル庁)
デジタル庁のホームページ。シンプルな構成は他省庁のサイトとは一線を画す
(出所:デジタル庁)

つまり、デジタル庁のWebサイトを作るとは「日本で最もステークホルダーの多いWebサイト」を作ることだと思います。大量の意見を吸い上げた結果、「みんなの『見やすい』が『見にくい』になる」とはよくある話です。「シンプルでいきます」と覚悟を決めて貫き通したことが「すごい」のです。思い切りの良さを感じました。

大堀祐一氏(以下、大堀)確かに「そぎ落とされている」サイトです。装飾的な要素、意味のない配色などが一切なく、原初のHTMLに近いという印象です。当社ではJesse James Garret氏が提唱した「The Elements of User Experience」、通称「UXの5段階モデル」をグッドパッチ流に「デザインの5段階モデル」として再解釈していますが、そこでは目に見える表層のデザインの前には「骨格」、「構造」、「要件」、「戦略」というバックグラウンドがあり、それを踏まえることで初めてデザインが仕上がってくると考えています。

つまり、「そぎ落とされたデザイン」は「徹底的に研ぎ澄まされた戦略や要件」から生まれてくるのです。戦略や要件がしっかりと定義されていないと、多方面からの意見を処理できずブレてしまい、「あれも入れて、これも盛り込み」と雑多なデザインになってしまいます。デジタル庁のWebサイトは、デザインの裏の戦略、要件などが徹底的に考え抜かれていると感じます。

ハマダナヲミ氏(以下、ハマダ)私はデジタル庁のサイトウォッチャーでして(笑)、ほぼ、毎日見ています。印象的だったのは「Webサイトってこういう型だよね」という常識が鮮やかに覆されたことです。

例えばキービジュアルです。多くの人はトップページの上の方に横長でわりと大きめの写真素材が配置されているWebサイトをよく目にしていると思います。ところがデジタル庁のWebサイトにはキービジュアルがなく、これまでとはまったく違ったデザインをやすやすと見せてくれています。「ああ、こういうやりかたもあるのか」と、すがすがしく思いました。

また、ロゴやモチーフを感じさせるようなビジュアルの要素がないことも非常に印象的でした。大規模なWebサイト制作では通常、「まずロゴを作りましょう」、「ビジュアルのモチーフは何にしましょうか」といった話し合いから始まることが多いのですが、デジタル庁のWebサイトには一切、そういった要素がない。情報をデザインやマークのみで表現することをせず、必ずテキスト情報として読み解けるように作っている、それを徹底していることが素晴らしいと思いました。いかにシンプルなやり方で情報を正しく届けるかを非常に戦略的に実践しているWebサイトだなと感じました。

――専門家ならではの視点ですね。お話しを整理すると、まずはシンプルで「研ぎ澄まされた」Webサイトであると。それを実現するために、シンプルなデザインの裏側にある戦略や要件が徹底的に考え抜かれ、きちんと定義されていること。そして、ブレない戦略や要件をもとに多くのステークホルダーからの要望や意見をきちんと制御・調整できていること。こうしたことが、デジタル庁のWebサイトが「なぜ、分かりやすいのか」の理由といえそうですね。

齋藤シンプルであることは、Webサイトの改善・改修や更新にも大きな意味があります。変化のスピードや規模がこれまでにないくらい大きな今の世の中では、Webサイトに限らずさまざまなソフトウエアやハードウエアにおいて、「これなら完璧」というものは存在しないし、作れないでしょう。現代のデジタル領域のデザインでは、完璧を初めから目指すのではなく、「探求していくためのものづくり」、改善・改修、更新がしやすくて、より良いかたちを次々に追求していけるような実装のされ方が重視されています。

デジタル庁のサイトは更新頻度がかなり高く、多方面からの改善要請や意見なども多く寄せられると思います。当然ながら一度で完璧を目指したのではないでしょう。今後の改善・改修、更新の手間やコストを考慮しても、全体をシンプルに仕上げたことは大きな意味があると感じています。

大堀Webサイトの「使いやすさ」の視点では、「見る人」の立場から構成されていることも特徴です。象徴的なのがグローバルメニュー。「一般の方向け」、「行政・事業者の方向け」、「報道関係者の方向け」などと分けられていて、Webサイトを訪れた人がどこに行けば迷わずに知りたい情報にアクセスできるかが考えられています。

デジタル庁のグローバルメニュー。訪れる人の立場で分類されている(出所:デジタル庁)
デジタル庁のグローバルメニュー。訪れる人の立場で分類されている
(出所:デジタル庁)

一般的な省庁のWebサイトでは、グローバルメニューに「お知らせ」や「政策」などが配置され、情報の発信側の視点で構成されていますが、デジタル庁のWebサイトでは見る人のペルソナを意識し、「必要な情報」に素早くアクセスできる構成にしています。これも「思い切ったな」という印象です。

さらに読み解いていくと「一般の方」向けを選ぶと最初に出てくるコンテンツが「よく見られるページ」です。これを見たとき「うまい!」と思いました。デジタル庁に寄せられる問い合わせの8割くらいは、この「よく見られるページ」のカテゴリに集約できるのではないでしょうか。Webサイトに来て、「一般の方向け」をクリックし、「よく見られるページ」にたどり着けば、だいたい欲しい情報を入手できるということです。

「一般の方」向けを選ぶと、「よく見られるページ」がまず目に入る(出所:デジタル庁)
「一般の方」向けを選ぶと、「よく見られるページ」がまず目に入る
(出所:デジタル庁)

齋藤また、外部サービスを非常にうまく活用しています。例えば職員の採用のページでは、HERPという別のシステムを使っていて、募集要項などは別システム上に掲載されています。情報のオープンデータ化の取り組みでもPower BIというダッシュボードが入っていて、それがトップページの「政策データダッシュボード」というボタンから利用できるようになっています。

デジタル庁の政策ダッシュボードのページに入っていくと、例えば「自治体での子育て・介護関係の取り組みでは65.1%がオンライン化されている」といったデータがグラフで示されているなど、分かりやすく公開されています。従来のように情報をPDFでダウンロードさせるのではなく、「データを再利用可能な状態」でも公開するという取り組みで、一歩先の世界が実現されていると感じました。

そして、これらの外部ツールを全体のデザインと違和感なく溶け込ませている要因も、シンプルに保たれたデザインで全体が整っているからこそと言えます。複雑な色や形を持ち込んでしまうと、外部サービス部分の見た目を全体と一致させることはかなり難しくなってきます。